「キング」の輝き


B.B.キングは一体どのような形でステージに登場するのだろうか?
高まる鼓動を抑えながら、息をのんでステージに注目した。
バック・バンドだけによる演奏が30分続く。
この臨場感がたまらない。

私はボビー・ブランドのライヴが終わった後、
密かに一番後ろの通路側の席に移動した。
幸い席がいくつか空いていたからである。
BBの写真を間近で撮るには、
いつでもステージに近づいていける通路側の席が一番。

そしてついに、
「Welcome To The Stage, The King Of The Blues,  B.B.KING!」
というイントロダクションがあり、
ステージ向かって右側の袖から左手を挙げてBBが登場!

すると、「ウワァ〜〜〜」という大歓声と共に、堰きを切ったように
ドッとたくさんの人がカメラを持ってステージに殺到した。
私も慌ててステージに走り寄り、大勢の人に埋もれながら
シャッターを何枚も切る。

「BBだぁ〜!BB〜!本物だ〜!やっと、やっと会えた・・・」
この時の気持ちは筆舌に尽くせない。
もう無我夢中でBBの姿を目で追った。
まわりの人も興奮している。
BBが両手を広げながら椅子にゆっくり腰を降ろす。
そしてお付きの人がギターをBBに手渡す。

いきなりルシールの甘く艶のある音色が聴こえてきた。
波が引くようにステージに集まった人々は席に戻る。

BBは左手の指をフレッドの上でダイナミックに震わせ、
あの優雅な音を作り出す。
観客席からは手拍手が鳴り響き、
「I Love You , B.B.King!」という女性の叫び声と
「You Are Fine!」「Lucille!」などの言葉が飛び交った。

ピタッと曲が止まり、バックの音が小さくなる。
BBは突然挨拶をし始めた。
「皆さん、今日は観に来てくださって、本当にありがとう!
とってもいい気分だよ。皆さんはどう?」
BBが抑揚を付けて歌うように話す。
「さぁ、いくよ! 準備はいいかい?」と言ったとたん
バックでかすかに鳴っていたドラムとベースがいきなり大きな音になり、
BBの言葉にメロディーが加わった。
「・・・スゴイ声量だ!」
BBの力強い歌声が会場全体に響き渡り、人々は歓喜の声をあげる。

まさしくあの包容力に満ちたBBの声!
そしてロマンチックなルシールの声!
ふたつの声が交互にBBの感情を表現する。
「・・・たった一人しかいないんだ。
この瞬間はもう二度と訪れないんだ。」
そう実感した。

BBが、「私の大好きな曲なんです」
と言って絶唱した「I NEED YOU SO」は今でも深く心に刻まれている。
これは、アイヴォリー・ジョー・ハンターが世に送り出した
数あるヒット曲のうちのひとつ。
BBが「Live in Africa」や「Live at the Apollo」などで歌った  
「GUESS WHO」も彼が歌ってヒットさせたものだ。
どちらも素晴らしい名曲である。

「君なしに僕の幸せなんかありえない
もし君といられないのなら
生きてはいけないよ
僕を強く抱きしめてほしい
そう、君が家にいないときには
夜ごと淋しさにかられる・・・」
感極まった声がひしひしと胸に響いてくる。
思わず目頭が熱くなってしまった。

BBが歌っている間、ひっきりなしに観客が席を立ち、
ステージに近寄ってフラッシュをたく。
15歳くらいの女の子が一人でステージのそばまで来て
音楽に合わせて踊っていた。
時には熱狂のあまり、ステージの床を両手でバンバン叩いている。
その子を笑顔で見つめるBB。
女性達がバラの花を持ってステージの中央にやってくると
BBは使っていたピックを下に落として彼女達にプレゼントする。
ポケットにはたくさんのピックが入っているらしい。

「THREE O'CLOCK BLUES」や「HOW BLUE CAN YOU GET」などの
スロー・ブルースのメドレーを弾いている間、
ある女性がBBの目の前に来て、写真を撮っていた。
全くかがむことなく堂々と!
BBはおかまいなしで、目を閉じてルシールを弾く。
私もその時、「この瞬間」を撮りたいと思い、
身をかがめながらステージまで歩いて行った。
BBの真正面に来た時、
スクッと立ち上がりお腹をステージにつけてファインダーをのぞく。
すると2メートル先で、ルシールを猛烈な勢いで弾くBBが現れた。
「凄まじいエネルギーだ・・・ これはキングの輝き!」
BBの身体からは強力なエネルギー発せられていて、
私はそのまばゆいオーラに圧倒されてしまった。

席に戻った後、深呼吸をしてみる。
彼の歌声が再び聴こえてきた。

「アメリカまで来てよかった。
日本でもしBBを観れたとしても、
きっとここまでの体験はできなかったかもしれない。
まわりの歓声も、日本人の私には歌のように聴こえる。
この雰囲気の中でBBを観ることができて幸せだ・・・
ここはアメリカなんだ!」

そう思ったとったん、とめどもなく涙があふれてきて
「ROCK ME BABY」を歌うBBがかすんで見えた。
続けて大ヒット曲「The Thrill Is Gone」のイントロが始まると
客席からは拍手の嵐。

次の曲は、ちょっと寂しげでメロウなギター・フレーズから始まる、
「PLEASE ACCEPT MY LOVE」
BBの声はどこまでも広がっていく。

BBはラストの曲の終わりでもう一度挨拶をして
このライヴにかかわった全ての人々にお礼を言う。
この時、ステージの下は人の波が押し寄せ、
BBに握手を求めたり、
BBが配る赤いバラの花をもらおうとしている人でごったがえしていた。
絶妙のタイミングでサインをもらっている人もいる。

実は私もかすかな期待を寄せて、
日本から「Live at the Regal」のレコード・ジャケットと色紙を持参した。
ライヴの最中、ジャケットを抱えて聴いていたのである。

たくさんの人がBBに手を伸ばす。
ピックをもらっている人も大勢いた。
でも私は、目の前で繰り広げられている光景を
ぼんやりと後ろから眺めているだけだった。
握手を交わしたり、サインをもらおうという気持ちは全く起きなかったのである。
きっとルシールを弾くBBを目の前で見れて、
満足感に浸っていたからかもしれない。

まさか自分がこの後、楽屋でBBと会えるだなんて
この時は夢にも思わなかった。

<04・5・12>